モノクロ，サイレント。

ある時を境に，自分はどうも時空連続体でありながら，分裂体になったようだ。たとえば，寝ていて，一瞬目を覚まして水分補給したとする。すると，自分の脳内で「寝返りを打って寝続けた自分」を視覚的に再現し，あまつさえ仮にそれぞれの有効度が得点化されるのが分かる。小さな例を続ければ，右に寝返りを打った場合と左に寝返りを打った場合の違いすら趣味レートされる。おっとシミュレートだ。

ものすごくたくさんの分岐した自分の人生を，同時にいっきに体験できる。別のルートのほうが有利になりすぎたと感じた場合，人生をやりなおすことはできないが，別のルートの人生を継ぎ足してしまう，ようは実際にそれを実行することも可能だ。未来は変動するのだから。

なぜこんなことができるようになったのだろう。思い返すと，広域海賊課の一級刑事である自分・ラテル・サトルには，パートナーのラジェンドラによる強力な計算支援と，それを受け取るインターセプターがある。この分岐感覚を身につけてからまだ3時間ほどだが，追ってボス・バスターメイムから通達があるかもしれない。

それを待つのも面倒だ。インターセプターを介して呼び出し。 「なあラジェンドラ，俺はΩ連続体になった気分だよ。」 「ラテル，あなたの体に起こっている変化は，私も観測しています。私たちのようなΩ連続体，時空に多元に展開するコンピュータ知性とは違うのですが，なにか興味深いことが起きているようですね」 「ようですね，ってことは，フムン，お前が手を加えているんじゃないんだな」 「私が行うなら，先にバスターメイムから説明がありますよ。そうでなく，私が独自の判断で行ったとしたら，私は自分の環境動作点検を申し出ます。」

結局原因はわからない。ただ，この多元認識は，海賊を追い詰める際に役に立つと思われる。海賊との対峙は一刻を争う。普段から自分の行動に後悔などしないが，後悔でなくかってに分岐認識されるのだから，たらればを考えるのではなく，勝手に筋道だてて整理される。と考えながら，“考えなかった自分”のルートも数値化される。

ここで目が覚めた。神林長平［敵は海賊］シリーズ。

残るは，気分障害というよりは，生活リズムの大きな乱れ。

• 夜にまったく眠れないで，朝10時から寝てしまうパターン
• 2時間おきに目が覚めるが，とにかく眠れるパターン
• 12時間くらい突如きれいに眠れるパターン
• 過度に，20時間連続寝てしまうパターン

どれが今日やってくるかわからない。